読書の最近のブログ記事

死体の経済学 (小学館101新書 17) タイトルから内容が想像しづらいけど、「死」にまつわるビジネスのルポ。
今後、日本で市場が拡大する分野だと考えたので読んでみた。

扱っている題材は、葬儀、エンバーミング(遺体衛生保全)、遺体防腐スプレー、納棺と死化粧、消臭剤、遺品整理屋と事件現場清掃会社、棺、火葬場といったところ。
普段の生活では関わらないので、どれも興味深い話ばかり。

ただ、高齢化社会とは言っても、裏返せば少子社会でもあるわけで、高齢者と非高齢者の人口比を考慮すると、死亡者一人にかけられる予算というのは減るのではないかと思った。
6つのポケットの逆の現象が発生するわけだ。
でも、同時に相続もあるので一概には言えないかもしれないけど、立て続けに亡くなってしまうと厳しいだろうなあ。
エンデの遺言―「根源からお金を問うこと」 副題は「根源からお金を問うこと」

エンデが考えたことに納得できるかどうかは別として、お金とは何なのかを考えるには良い。

自分が読んだ本の中では、同じテーマであれば、岩井克人の「貨幣論」(ちくま学芸文庫)の方がオーソドックスかと思います。
ただ、amazonのレビュー読んでみると、結構批判もあるようですね。

ゲゼルの「減価する貨幣」(老化するお金=マイナスの利子がつく)にも1章が割かれています。
あとはイサカアワーを始めとする地域通貨の話もなかなか興味深かった。

通底して、銀行を中心とした現行の金融システムに対して批判的ですが、どうも実務的な視点が欠けているような気がしてなりません。
まるで銀行が大して何もせずに(信用創造で金を生み出して、その金を貸し付けて)金利で儲けているように書いてあるけど、貸倒やインフレ等のリスクの存在を無視していると思う。

そんなに銀行が儲かるなら世の中銀行だらけになっているはず。
でも、そんな風になったら貸出金利の低下競争が起こったり、企業選別眼がある銀行だけが生き残って他は潰れるよね。
充分に自由な市場の場合、っていう但し書きは必要かもしれないけど。

そうそう、「信用創造」という概念が悪の根源みたいに扱われているけど、これがどうもピンとこない。

ちょっとWikipediaの信用創造の項目から引用します。

銀行は預金を受け入れ、その資金を誰かに貸し出す。その過程で信用創造は発生する。以下は、そのプロセスの例である。
  1. A銀行は、X社から預金1000円を預かる。
  2. A銀行は、1000円のうち900円をY社に貸し出す。
  3. Y社は、Z社に対して、900円の支払いをする。
  4. Z社は、900円をB銀行に預ける。
この結果、預金の総額は1900円となる。もともと1000円しかなかった貨幣が1900円になったのは、上記2.の結果として、Y社が900円の債務を負い返済を約束することで900円分の信用貨幣が発生したことになるからである。
A銀行は単にX社から受け入れた1000円の預金の内、900円をY社に貸し出しただけでは無いの?
Z社がY社に対して900円の価値の財なりサービスを提供した(Z社が900円分の価値を生み出した)からこそ、預金の総額が1900円になっただけでは?

2の時点でのA銀行のバランスシートを見てみよう。
資産の部
 現金預け金100
 貸出金900

負債の部
 預金1000

ってことでしょ。
別に信用貨幣とやらが生み出されてなんかいないのでは?

Money is (Someone's) Debtであることは正しいと思うけどね。

本の内容からは少し離れてしまったけど、こうしてお金について考えることこそが、この本の「正しい読み方」とまでは言わないけど、期待された読み方なんではないかと思う。
金融NPO―新しいお金の流れをつくる (岩波新書)
かれこれ2年以上前に読んだ本ですが、今更ながらにレビューします。

岩波新書なので(?)、ちょっと左寄りな感はありますが、少なくとも「非営利金融」を鳥瞰するには悪い本ではないと思います。

頼母子講から始まり、主に日本を中心にNPOバンク、市民ファンド、寄付、米英の金融NPOそしてコミュニティバンク進んでいきます。
もちろん、ひところ話題になったマイクロファイナンスについても。

ただ、昨年会社更生手続き開始した武富士の元株主であり、LIPのマイクロファイナンス貧困削減投資ファンドの出資者でもあり、そしてリバタリアンの自分としては、マイクロファイナンスが賞賛されて、消費者金融が悪者扱いされるのはちょっと複雑な気持ちです。
やってることは変わらないというか、金利だけ比べてしまえばむしろ、マイクロファイナンスの金利って日本の消費者金融の「グレーゾーン金利」なんかよりインフレ率を考慮したとしても断然高かったりするわけで。
まあ、でも使途という点ではマイクロファイナンスは基本的に事業に対する融資なのに対して、消費者金融は使途自由なので、そこが大きな違いではあるのか。

「孟子」

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孟子〈上〉 (岩波文庫) 孟子〈下〉 (岩波文庫) 目指せ四書(大学、中庸、論語、孟子)読破シリーズの最後の1書。

大学卒業までに読み終えることが目標だったが、読み終えたのが2009年1月なので、2~3年遅れ。

当時読んでいて気になった節を読み返してみたけど、今となってはそれほど。
逆に今、パラパラと読み返してみると興味深い記述がいろいろと。
語り尽くされたことだが、古典て味わい深い。

古典を読むことの利点は人間や社会の変わらない部分と変わる部分が分かることだと思う。

紀元前に著されたものだが、今に通じることは多い。

2011/02/08追記
上巻を読んだ際の感想はこちら。
孟子<上>
闇の子供たち (幻冬舎文庫)
貧困に喘ぐタイの山岳地帯で育ったセンラーは、もはや生きているだけの屍と化していた。実父にわずか八歳で売春宿へ売り渡され、世界中の富裕層の性的玩具となり、涙すら涸れ果てていた…。アジアの最底辺で今、何が起こっているのか。幼児売春。臓器売買。モラルや憐憫を破壊する冷徹な資本主義の現実と人間の飽くなき欲望の恐怖を描く衝撃作。


勝手にドキュメンタリーだと思い込んで買ったところ、実は小説だったっていう。

永江朗の解説が左翼的で気にくわないけど、本編は面白い。

ラストが好きです。
単なるハッピーエンドではなく(このテーマで単なるハッピーエンドだったら最低評価つけると思う)、絶望しか残らないわけでもなく。
物語 メキシコの歴史―太陽の国の英傑たち (中公新書) 副題は「太陽の国の英傑たち」

最近、読書雑感をサボっていたので、かれこれ2年以上前に読んだ本です。
月日が経つのはあっという間ですね、本当に。

この本は当時自分の読書テーマ「世界を知ろう」の3冊目です。

ちなみに、1冊目「バチカン」、2冊目「イスラームの世界地図」で、このテーマは3冊目(つまり、本書)で終わりました。

問い:なぜ、メキシコだったのか。
答え:よく知らないから。

というわけで、メキシコの歴史に関する予備知識ほぼゼロで読みました。
タイトルに「物語」とついていますが、特に物語形式ではありません。

ただ、副題に「英傑たち」とある通り、人にスポットを当てた感じになっているため、ある程度、歴史の流れが分かっていないと分かり辛かった印象でした。
が、パラパラと読み返してみると、それは主に近代の話で、全編を通じてというわけでもなく。
マヤ文明から始まって、新大陸の発見、植民地時代、独立戦争、帝政、そして、戦争やら独裁やら内戦やらクーデターやら革命に加えて、複雑な人口構成も相まってなかなか壮絶な歴史でした。
ペニンスラール(スペイン本国人)、クリオージョ(移民2世以降)、先住民、メスティソ(白人系と先住民の混血)、黒人、ムラート(黒人と先住民の混血)とこんな感じです。
最終的には現代メキシコまで話が続きます。
それほど分厚いわけでもない新書でよくもここまで書けたものだと。
おまけに、巻末には人名と事項の索引つき。

正直1回読んだだけでは把握しきれませんでした、というかあまり記憶に残っていません……。
メキシコから見たアメリカ合衆国というのはなかなか面白い視点だなと感じました。
時代が時代とはいえ、当時のメキシコ領の1/3を割譲とかエグい。(メキシコ割譲地(wikipedia)

メキシコというと、マフィアとか麻薬のイメージが強くて、その政治に目を向けたことが無かったけど、外交はなかなか賢く立ち回っている模様。

なお、最近の私の読書動向は以下を参照ください。
basico@hexarysの書斎
サラリーマンは2度破産する (朝日新書) 最近マンション購入検討中なので、chikirinの「10年以上のローンはだめです」を再読。
そこで紹介されていたので読んでみました。

ポイント
・破産の危機は、金融資産残高がマイナスになる子供の教育期と退職後に訪れます。
・ライフプランを作成して、資金計画を立てましょう。

ライフプランが無いと、地図もコンパスも無いまま航海に出るようなものかもしれません。
ついつい日々の忙しさにかまけがちですが、一度、生涯の収入と支出をレビューしておくと費用対効果は抜群かと思います。

ただ、自分の場合は結婚の予定も無いので、ライフプランといってもなーというのが正直なところですが……。

かと言って、子供が出来てからでは遅い可能性もあるので、結婚が決まったぐらいでライフプランを考えるのが妥当かなと思いました。
そんなわけで、できちゃった婚はリスキー極まりないという当たり前の事実を再認識した今日この頃。
年金は本当にもらえるのか? (ちくま新書) 歴史的経緯も含めて、日本の年金制度が「大本営発表」によらない形で紹介されているので入門書として丁度よいかと思います。
厚労省に対して若干批判的過ぎる嫌いもありますが、まあ許容範囲です。

とはいえ、厚労省が試算した厚生年金の給付負担倍率の割引現在価値の計算に運用利回りではなく、賃金上昇率を使用しているということは非常に詐欺的だと感じました。
それも、2004年の試算では運用利回りを使用していたのに、2009年時は賃金上昇率を使用したということです。
「粉飾決算」と呼びたくなるのも分かる気がしますね。

終盤では改革案が提案されていましたが、これにはちょっと疑問でした。
方針としては、基礎年金分の目的消費税による税方式化と所得比例分の積立方式への移行です。
財源は、相続税と固定資産税、ここまではいいです。
それでも足りない財源は赤字国債の発行で賄うということです。
そして、赤字国債の資金調達は年金の積立金を運用先にすることで充てるらしいです。
国債を経由するだけでお金の流れは変わらないじゃん、と思ってしまうのは私だけでしょうか。

まあ、前半だけでも大きな改革ですし、うまくパラメータを調整してやれば大分ましに思いますが。

政治的実現性も考慮に入れると、日本の年金制度は既に詰みの状態に近いと思います。

「勝ち逃げ」は許したくないんだけど、若い世代は人口と投票率で負けてるからきっと割を食うんでしょうね……。
微力ながら何とかしたいとしたいとは思ってますが……。

ちなみに自分は年金制度はその他の社会保障も含めて廃止して、ベーシック・インカムや負の所得税に一本化すればいいと思っています。
働かざるもの、飢えるべからず。 自分は基本的にはベーシック・インカムは現状よりマシという意味で賛成の立場です。
ベーシック・インカムの原資に相続税(税率100%)を使うというアイデアも悪くないと思います。
(自分の場合は相続税を100%にするといっても、贈与税を0%にすることが前提ですが)
ただ、本を読んでいて、小飼弾とは共有している前提、というか世界観が異なる気がしました。

自分は働かないことは悪いことだとは思っていません。
小飼弾は、冒頭で人間は誰も働いていない、生産していない、コメを作ってるのはイネで、人間は収奪しているだけだと言ってます。
なんか言葉遊びみたいですが、自分としてはじゃあその「収奪」とか加工こそが働くってことなんじゃないかと思います。
人間が品種改良した家畜や農作物なんて勝手には育たないし、野生の植物にしたって、漁業にしたって少なくとも収穫という作業は必要なわけです。
口を開けて寝てれば、勝手に口の中に食べ物が飛び込んでくるのだったら、働いていないと言えるかもしれないですけど。
働くって言葉の定義が違うだけで、お互い同じようなことを言っている気もしますが、小飼弾は根底では働かないことは悪いと思っていて、でも本当は皆働いていないんだから働かないことは悪いことではないんだという屁理屈をこねることになってしまったんじゃないかと思います。

でも、自分は働かないことは悪いことだとは思っていません。
そのかわり、飢えるべからずとも思っていないし、生きるべからずとも思っていません。

働かずに食えるんだったらそれで問題ないし、働かない結果飢えて死んでしまっても問題ないと思っています。
仔細に渡って考え方を確立させているわけではないのですが、生きる権利(他者から自己の意思に反して生命を奪われない)はあっても生存が(政府によって)保障されるわけではない、という感じでしょうか。

自己責任論に近いかもしれませんが、生きる力のない人間が死ぬことを防ぐ義務は無いと思います。
但し、あくまでこれは原則的な考え方です。
生きる力のない人間であっても死ぬべきでないと考える人々、あるいは生きる力の有無なんて人知の図り知れぬところで、全ての人間は死ぬべきでないと考える人々が自らの意思で死んでしまいそうな人達を助けようとすることを否定するものではありません。
むしろ対象が子供であれば、自分も積極的に助けたいと思うでしょう。

逆説的ですが、人々からそうした援助が受けられる人間というのは自分の定義では生きる力のある人です。

どうも本の内容からだいぶ離れてしまいましたが、ベーシック・インカムに限らず、いろいろ自らの考えを深めるきっかけとして有意義な本だったと思います。
と無理やりまとめて終わりにしますw
イスラームの世界地図 (文春新書) イスラムは21世紀を考える上で、欠かせない要素だ。
イスラム人口は12億人。
ざっと、世界人口の20%を占めていて、インドの人口と同じくらい。
日本の10倍である。
アメリカ国内だけで見ても700~800万人のイスラム教徒がいて、それだけでスイスやイスラエルの人口に匹敵する規模だ。

イスラムというと、中東~北アフリカのイメージが強く、どうしても日本と縁遠く感じるかもしれないが、東南アジアのインドネシアは屈指の規模のイスラム国(イスラム人口:1億8000万人、全人口の88%)として知られているし、マレーシア(イスラム人口:1200万人)も半分以上がイスラム教徒だ。

これで世界に影響を与えないと考えるほうがおかしい。
このブログでもタカフル(イスラム保険)については何度か触れてきた。

「東洋と西洋の間には、中洋とでもいうべき広大な地域がひろがっている。東洋とも西洋とも違うこの領域は、イスラームの世界である」
本書の序文だ。

本書では、イスラーム、すなわちアッラーの教えから始まり、パレスチナ問題・湾岸戦争・ソ連のアフガン侵攻・チェチェン問題・タリバン・クルド人問題といったよく知られた問題から中国・東南アジアやユーゴスラビアやアフリカにおける紛争等の動き、そして、歴史や文化までコンパクトにまとまっている。

イスラムの入門としてはちょうど良いかもしれない。