藤田浩之の誤算

        作:雲流 雪



第4章

 case1 志保の場合

 ……はぁ~~~

 どうやら、弾切れのようだった。
 そこには、さきほどまで、マシンガンの如く喋り続けていた彼女の面影はない。
 彼女は悩んでいた。こんなに悩むのは志望高校を決めるとき以来だろう。

 ――寺女。
 県内有数のお嬢様学校である。

 そこに、自分が通う……。
 なんてことだ。間違っている。
 そう思わずに入られない。
 ……実際そう思っている。

 朝、起きたら、全て夢だった。
 なんてことにならないだろうかと考えてしまう。
 ……これが夢オチだったらどんなに楽だろうか。
 そんなことを考えてしまって思わず笑う。
 この物語は夢オチで終わらない。
 それを自分は知っている。
 作者は、すでに別のオチを考えているからだ。

 ……今日はもう寝よう。
 いつまでも起きていてもしょうがない。
 寝ようとして、ふと、窓の外を見る。
 ……明るい。もう朝だ。

 徹夜をしてしまったらしい。
 全然、気がつかなかった。

 時計を見ると、いつも起きている時間より1時間ほど早い。
 ヒロほどではないにしろ、朝はいつも慌しいので、
 ゆっくりしていられるのは、なんだか不思議な気分がする。

 ……こんな感傷に浸るのは自分らしくない。

 やはり、寺女行きが堪えているのだろうか。



 2時間後、家を出た志保は猛スピードで学校へと向かった。


 case2 雅史の場合

 僕は今、世界で1番幸せな人間かもしれない。
(そう、君は世界一、おめでたい人間だ)

 赤毛の幼なじみや騒がしい腐れ縁、メガネの委員長に、ハーフのハンター、大財閥のお嬢様……。
(ひとり忘れていないか?)
 今まで、僕の邪魔ばかりしてきたが、これからはそうもいかない。
 超能力者や、格闘家、ロボットも、僕らの愛の巣には入れない。
(なぜ、そんなことを知っている?)

 そう、僕の天下だ。
 ついに僕の時代がやってきた。
(半日天下だけどね……)

 おっと、でも、油断しちゃいけない。
 男の中でも浩之は人気が高いから、狙っているやつはたくさんいる。
 詳しい数はよく判らないが、クラスの半分以上が狙っている。
 僕にはそれが判る、言うなればそれは……男の勘だ。
(そりゃ、あんたの妄想だ) 

 ……どうも、さっきから、なにかに言われている気がする。
 気のせい? いや、そうじゃない……。

 そうか、判ったぞ。
 神様が僕のことを応援してくれているんだ。
 浩之、僕達の仲は神様公認なんだ、やったね☆
(…………)

 さて、そろそろ寝ようかな……。


 case3 あかりの場合

「くまちゃん、わたし、どうしたらいいのかな? あの本にはこんなこと書いてなかったのに……」

 そこには、真剣な面持ちで、くまのぬいぐるみに相談する一人の少女がいた。

  「え? 学校を爆破すればいいって? だめだよ、そんなの。 学校がなくなっちゃったら元も子もないでしょ」

 ……元も子もあるなら学校を爆破してもいいらしい。

「校長の弱みにつけこんで脅す? うちの学校の校長は大した権限は持ってないよ。  だから、却下」

 大した権限があるなら脅しも辞さない構えだ。
 加えて、校長の弱みも握っているらしい。

「寺女を破壊? う~ん、なかなかいいかもね。……あ、やっぱり駄目。
 ライバルが増えちゃう。最終的に浩之ちゃんが私のものになるとしても、
 その“過程”が増えるのは困っちゃうよ。みんな消すわけにもいかないし……」

 そう、この少女は、とある予言書を持っていた。
 俗にシナリオと呼ばれているものである。
 次の春、新たに3人のライバルが現れることを知った彼女は、そのうちのひとりの消去方法を
考案していた……。すなわち、カ○サンドである。
 これは、この時点では第2級のネタばれ事項なので、伏字にしておくことにする。

 そうしている間にも“くまのぬいぐるみ”の発言はますます過激さを増してきている。

「地球を消滅させて浩之ちゃんと宇宙船で脱出する? は、恥ずかしいよ、二人っきりなんて……
 だって、もし……、あっ……、ひ、浩之ちゃん? だ、駄目だよ、そんなこと……」

 ……恥ずかしくなければ、地球を消滅させる事に何の感慨もないらしい。
 そんな、彼女は今、狂気の扉を開け、妄想の世界へと足を踏み入れた。


 case4 浩之の場合

 いくら悩んでも決まったことは仕方ない……。
 そう考えた彼はすでに寝ていた。

 いや、そんなことすらも考えずに寝たのかもしれない。

 とにかく、彼は寝ていた。

 それは最も賢明な方法であったかもしれないが、それが彼の賢明なことを表しているわけではない。
 眠っているとき以外は(夢の中でも眠いのかもしれないが)いつも眠そうにしている彼が 実際に眠かっただけのことである。

 そして、そんな彼は今も寝ていた……。







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