藤田浩之の誤算
作:雲流 雪
第5章
朝。
典型的な真冬の日の朝だ。
空はどこまでも高く、そして青い。
空気は冷たく、そして澄み切っている。
ただ、問題なのは、今は3月の中旬ということだ。
連日、平年を大きく下回る記録的な寒さだとテレビは伝えている。
しかし、平年通りの気候だった年がないと思うのは作者だけだろうか……?
ぴんぽーん、ぴんぽーん、ぴんぽーん……
「浩之ちゃ~ん。寝てるの~? 早くしないと遅刻しちゃうよ~。ひろゆきちゃーん」
ふぅ、しかたないな~。
こうなったら鍵を開けて直接……。
どたどた、どたどた。
この足音。浩之ちゃんに間違いない。ちゃんと制服も着てるみたい。
……今日の浩之ちゃんは、少し機嫌が悪そう。
「うるせーぞ、あかり。ったく、よぉ~。今日は最初にチャイムが鳴ったときから起きてたんだぜ。
少しは待つことを覚えろ。鳴らしてすぐに大声で、しかも、ちゃん付けで呼ぶな」
「え? でも浩之ちゃんは前からずっと浩之ちゃんだったし、これからも―――」
「そ~ゆ~ことをいってるんじゃないっ」
「でも、こうして朝迎えに行くのも、あと何回できるんだろうね……」
「…………。シリアスな展開にして話をごまかすなっ」
ぺしっ。
「うぅ」
やっぱり、今日の浩之ちゃんは機嫌が悪いみたいだ。
「よし、さっさといくぞ」
「なにが“よし”なの?」
「気にするなっ」
ぺしっ。
「うぅ」
やっぱり、今日の浩之ちゃんは機嫌が悪いみたいだ。
時刻は8時10分。
「ふぅ。今日は久しぶりに余裕で教室に辿り着いたな」
「うん、そうだね」
独り言にいちいち相槌を打つのは誰かと思えば、あかりだった。
「ん? お前、クラス違うだろ? なんで、当然のように隣の席に腰おろしてたんだよ」
「授業がはじまるまでならいいでしょ?」
隣の席の奴が困っててもいいのか?
「あのな~……」
「あ、浩之、おはよう。今日は早いね」
「おう、雅史か。まあな」
朝練でもあったのだろうか? やけに顔が赤い。
「あら、めずらしいわね。あんたがこんな時間に席にちゃんとついてるなんて……」
来た。俺の平和と安眠を妨げる奴だ。
食費を削る羽目になる大きな原因でもある。
「お前がこの時間に学校にいるほうが珍しいと思うが……」
「そんなこと言ってると、志保ちゃん情報があんただけ有料化するわよ」
いったいどこからそんな発想が出てくるんだ?
「なんだよ、それ。そもそも俺は仕方なく聞いてやってるんだぞ。
ガセネタ情報に金なんか払えるか。ぼったくりバーよりタチが悪いぜ」
「へ~、そおゆうこというんだ~。へ~、ほお~。聞きたくないのかな~?
今日の志保ちゃん情報。今日もまた、全校集会で重大発表をするらしいんだけどな~……」
魂胆が見え見えだ。まあ、のってみてみよう。
「ほお、なにを発表するんだ?」
「さあね。お願いします、教えてください、志保ちゃんさま。
って言ったら教えてあげなくもないわよ」
「なんだ、志保も知らないのか。志保ちゃんネットワークとやらも大したことないな」
「な、な、何言ってんのよ。そ、そんなことあるわけないじゃないのよ」
誰がどうみても図星の顔と口調だ。
「図星だったようだな。日本語がおかしいぞ」
「う、うっさいわね。そこまで言うのなら、お、教えてあげるわよ。
な、なんでも、昨日の発表と関係あることを発表するらしいわよ」
苦し紛れに思いつきをそのまま言葉にしたようだ。だが……
「そのくらい小学生並みの知恵さえあれば誰でも判るだろ。いや、志保にしては上出来か……」
「くっ」
「まあまあ」
相変わらず絶妙な仲裁だ。
「…………」
あかりが真剣な表情で考えこんでいる。気のせいか目が据わっているような……
「あかり?」
「きゃっ」
「はあ?」
どうやら完全に自分の世界に入りこんでいたらしい。
ぴんぽんぱんぽーん
そのとき、呼び出しのチャイムが鳴った。
「日直教員より全校の生徒諸君に連絡します……」
呼び出しじゃなかったようだ。
「8時40分より、体育館にて先日の全校集会に関する重大発表があります。
5分前には体育館に着けるよう準備をしてください。繰り返します……」
「朝から全校集会とはな」
「珍しいね」
「志保ちゃんデータベースによれば本校始まって以来のことよ」
「嘘つけ。1学期にあっただろうが。志保ちゃん海馬もあてにならないな」
「きぃーーーー」
「まあまあ」
「んじゃ、行ってみるとするか……」
「あら? 今回はサボらないの?」
「俺はお前と違って真面目だからな」
「なぁんですってぇ~~~~~~~~」
「まあまあ。じゃ、はやく行こう」
「そうだな……」