藤田浩之の誤算
作:雲流 雪
第3章
トゥルルルルーーーー、トゥルルルルーーーー……
あ?! 誰だ? 人が気持ち良く寝ている時に電話なんかしやがって……。
A、居留守つかってれば、そのうち切れるだろ……。
B、どうせ、志保かなんかの無駄話につきあわされるだけだ。
C、大切な用なら、また、かけてくるだろう。
……出ないことには、変わりない。
トゥルルルルーーーー、トゥルルルルーーーー、トゥルルルルーーーー……
トゥルルルルーーーー、トゥルルルルーーーー、トゥルルルルーーーー……
トゥルルルルーーーー、トゥルルルルーーーー、トゥルルルルーーーー……
トゥルルルルーーーー、トゥルルルルーーーー、トゥルルルルーーーー………
だあああ~~~~~!!!
しつけ~な~。
誰だ?! イタ電か?!
まあ、よっぽど大切な用事なのかもな……。
出てみるか……。
大きなあくびをひとつして、階段を降り、玄関のそばの電話機にむかう。
あぁ~、うちの電話はなんで、こんな不便なところにあるんだ? ……謎だ。
ガチャリ。
「はい、藤田ですが……。どなたですか?」
「…………」
「あの……?」
「…………………………………」
相手は、何も言わない。
くそっ! やっぱイタ電だったのか……?
なんて、タチの悪い……。
さんざん鳴らした挙句、無言とは……。
……無言?
そのとき、俺は、ひとつの可能性に気がついた。
つまり、この電話の相手は先輩……。
う~ん、我ながら、名推理だ。
親友のために身を引いて失恋したミステリマニアもびっくりだな。
「もしかして、先輩か?」
そう聞いて俺は受話器を思いっきり耳に近づける。
無論、先輩の声を聞き逃さないためだ。
「……はい」
聞こえた……。やっぱり先輩だ。
「どうしたんだ? いったい?」
「え? 今日の発表の内容? そんな、わざわざ……」
「ご迷惑ですかって? いや、そんなこと全然まったくこれっぽちも
ないよ。ぜひ聞かせてくれ」
・
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「そ、そんなバカな……」
「……………」
「え? 本当のことですって? まあ、そうだよな。
先輩がこんなたちの悪い冗談なんか言うはずないし……」
「…………!」
「ん? どうかした?」
「……………」
「あ、なんでもないって? そっか……。でも、無理すんなよ。昼間も保健室で休んでたんだろ」
「……………」
「いや、そんなことないって。また、明日な、先輩」
「……………」
「おう、じゃあな」
ふう~。しっかしな~。ほんとかな~? いや、別に先輩を疑ってるわけじゃないんだが……。
それにしても……な~。うちの学校が男子校になるなんて……。
時代に逆行してんじゃね~か。
俺のハーレム計画が台無しだ。いや、今、作ったんだけどな……。
だいたい、先輩は大丈夫だし、あかりもなんとかなるとしても、だ。
志保が寺女に通ってやっていけるのか? いや無理だ。どう考えても浮きすぎだ。
……志保なんかの心配をしてる場合じゃないな。
俺は……これから、どうなるんだ……?
一方、そのころ……
「え? 志保、それ、本当?」
「当ったり前じゃな~い。志保ちゃん情報に誤まりはないのよ」
「…………」
「ちょっとぉ~、まさか、あんたまでヒロみたいに疑ってんじゃないでしょうね~?」
「いや、そんなことないよ。もし、それが本当だったら大変だね」
「その“もし”ってのが聞き捨てならないわよ……」
「まあまあ。でも、そうしたらあかりちゃん、どうするんだろうね」
「そうね~、毎朝、一緒に学校に行ったり、餌付けしたりできなくなるからね~。
幼なじみの特権もこれまでね……。ん、今、変な笑い声が……」
「あ、い、いや、なんでもないよ。気のせい、気のせい。じゃ、もう切るよ。
教えてくれてありがとう」
「え、そんな~、いいわよ~。どうせ、ヤックでおごってもらうんだし~~」
「………………。さすがだね、志保。一本とられたよ」
「ふっふっふー。じゃ、ま、そうゆうことだから。ぐっなっあ~い」
「うん、おやすみ。でも、ひらがな英語はやめたほうが言いと思うよ。
せめて、Good,night!くらいは……」
がちゃり。
「……切られた。でも……ふふ、へへへ。あはは、ぐへへ。どわっひゃっひゃっひゃ……」
そこには、悪の帝王も真っ青な笑い方をする一人の少年がいた。
数時間後、笑い疲れた彼の口からは大量のよだれが垂れていた。
奇妙な独り言を口走っているがその内容を中継するわけにはいかない。
このサイトは18禁でも、や○いでもないからだ。
「彼」が壊れる数十分前。
「ふーん、そうなんだー。それは大変だねー」
「ちょっと、あかり? なんなの? その気の抜けた返事は? ショックで頭が回らないの?
なに? まさか、あんたまでヒロの不信心が移ったわけ?」
「志保ったらー、そんなことであかりちゃんは、騙せないよー」
「……その抑揚の無い声はなんなの?」
「だって……、そうだよね? 嘘だよね。いつものガセネタだよね?」
「あんた、ドサクサに紛れてきついこと言うわね。でも、これは焦心証明本物の情報よ」
「漢字が間違ってても……?」
「うっ……そ、そうよ。悪かったわね。でも上級生や他クラスの子にも確認したんだからね。
間違い無いわ。まあ、志保ちゃん情報はいつだって真実だけを伝えるものなんだけどね」
「そう……なんだ……」
「ちょっと、そんなに落ちこまないでよ。別に一生会えないって訳じゃないんだから……」
「でも、私どうしたらいいの? もう、迎えに行くこともできないし、餌……じゃなくて
お弁当だって……」
「そのくらい、学校が違ったってできないことはないでしょ」
「そうもいかないよ~。やっぱり学校が違うといろいろと微妙な問題が……」
「とにかく、今日はこれまで、あたしはこれから雅史にも教えてあげなくちゃいけないんだから……」
「あ、待ってよぉ~~」
がちゃり。
「うぅ……」
数分後、神岸家では、第220回夫婦会議が行われる。
議題は、「クマのぬいぐるみに向かって真剣に相談をしている娘の精神病の可能性」だった。
その後、来栖川の極秘データベースに侵入した彼らは、安堵すると共に、
HMX-12の存在を知る。
メインヒロイン降板の危機感を持ったひかりはミートせんべいに対抗すべく、
新料理の開発を進めた。